ヤブ医者の話

うちの近所の動物病院。
ヤブ医者です。

表だって大声で「ここはヤブ医者ですよ！！」って叫びたいけど、そうもできません。

動物病院って、本で読んだけど、動物園の飼育員とかが資格を持っていて、定年した後に仕事がないので開業するケースがあるとか。
老人で新しく開業するところは、ヤブが多いんだと。獣医師としての経験が少なかったり、昔の知識のまま勉強もしていないから。

近所の動物病院は、年寄りではないんだけど、ヤブです。
でも近所づきあいがあるので、行かないわけにもいかぬという距離です。

私には心から信頼してすべてをおまかせできる獣医師がいるので、正直わざわざヤブのところになんて行きたくないのだけど、近所すぎてそうもいかないので、信頼できる獣医師のほうにもちゃんと話して、予防接種はヤブのほうで打つことにしました。

以前ボメが行ったとき、あまりのヤブっぷりに嫌気がさして、必死で動物病院を探してようやく会えた信頼できる獣医師は、病気の時。
近所のヤブは、元気な時に行く病院、って決めて使い分けしていたんですが、くっちーはまだ１度もこのヤブにかかったことはなかったんです。
信頼できるほうの獣医師が、くっちーのことをすごく気に入ってくれていたので、顔見せがてら、ずっと信頼できる先生の方に通っていました。

でも、最近くっちーはボメの死から元気がなく、こんなときにちょっと距離がある動物病院まで車で運ぶことや、人気の先生なので待ち時間があり、その間犬のにおいや鳴き声で、ますます弱りそうな気がしたので、今回は近所へワクチンの接種に行きました。

ちいさなキャリーケースの中で、じっとおとなしくしているくっちー。
そりゃそうです、ここんとこただでさえ元気がないし、もともとくっちーは抱き猫で、人に触られるのが好きなコなので。

診察室に入ると、おもむろに看護師が、ひじまであるでっかい手袋をはめてやってきました。
私は「溝掃除かなんかしたあとの手袋を片づけるんだろうか？」と思っていたんですが、なんとその看護師は、そのでかい手袋をはめたまま、くっちーのキャリーに両手を入れました。

せまいキャリーの中にごつい手袋が入って来て、ただでさえ怖い病院なのに、ますます弱ってしまいそうで、思わず私は制止しました。

「おとなしいので、私が出しますからやめてください」

まるで板で挟んで出すような、くっちーが火ばさみではさまれて捨てられる毛虫のような、そんな扱いをされている気がしました。

そうしたら獣医師が言いました。
「この洗濯ネットに入れてください」と。

見るとドアのところに「猫は洗濯ネットに入れてお持ちください」と書いてありました。

よく、病院嫌いな猫で、暴れたりするこは、洗濯ネットに入れたら落ち着くとか、引っ掛かれないとか聞いたことはありますが、いきなり様子も見ないで洗濯ネットにいれるもんなんですか？これって普通なんですか？最近はこんなシステムに病院が移行してるとかですか？

私が信頼している動物病院は、看護師も先生もみんな腕は傷だらけです。
キャリーからは先生か看護師が直接だっこして台にのせてくれて、先生はいつも「くっちー、相変わらず美人だねぇ～。人間だったら結婚を申し込んでいるよ～。アンタかわいいねぇ～。うん、目も綺麗、耳も綺麗。ちょっとお腹さわるよ～。うん、大丈夫だね～」ってずっと猫に話しかけながら、顔を近づけてにおいをかいだり、脚やお腹を触ってちゃんと触診してくれる。

ボメのときは、それで「ちょっと視点が左右に開いている。瞳孔の開き方も鈍いので、脳に何らかの障害が出ている可能性がある」って気づいてくれたし、やはり触らないとわからないことってあるはず。

ヤブのほうは、洗濯ネットに入ったくっちーの背中のチャックをちょっとあけて、背中の毛をかきわけて、皮膚をつまみ、そこに注射しただけ。そこだけ。

これで初診料とるとか、ぼったくりでしょ・・・と思った。
何を診察したの？って。

私は傷ついたよ。
おとなしいくっちーをいきなり見もしないで、話しかけたりもしないで、ごつい手袋ではさんだり、洗濯ネットに入れられたこと。

体重だってはかった記憶ないもの。

たかが予防接種ならヤブでもできるって思った私が愚かでした。
とても動物が好きそうに見えない人に、獣医の資格なんてあるんだろうか。
国家資格じゃないよ。
資質、っていうのかな、この場合。

とにかく、なんかすごく傷ついた。
もう、いかない。

ボメの時もヤブだった。
でもそのときは洗濯ネットまでは貼り紙されていなかった。

「猫はパニックになると走り出したり逃げ出したりして、捕まえられないので」って獣医師が言った。
「ひどい猫ちゃんもいますからね」って看護師が言った。

みもしないで、くっちーのことみもしないで、そんなこと言ったんだよ・・・・。
触りもしないでそんなこと言ったんだよ・・・・。