８日目「それは、たった一週間前の話。」

2025年12月21日(日) 32 / 0

１号と２号と３号は、とある団地の一室で暮らしていた。

薄暗い階段にはアイスキャンデーの棒が散乱し、招き入れられた玄関には煙草と思われる独特の臭いが充満していた。

母と二人で待っていると、右手側の扉から１号と２号が引っ張り出された。
その部屋を隔てるガラス戸には、薄っすらと太った小型犬のような影が透けて見える。

２匹を抱き上げると、左手側の扉から３号が摘み上げられた。
その部屋には他にも何匹かの猫の気配があり、母猫の抗議の声も聞こえる。

紹介文よりも大きな１号。
紹介文とは違う性別の２号。
紹介文よりも小さな３号。

いろいろと想定外の３匹だったが、見知らぬ土地まで迎えに行った猫を置いていく発想がなかった私と母はキャリーバッグの準備を始めた。

１号はアッサリと手渡された。
３号もアッサリと手渡された。

２号だけは名残惜しそうに頬擦りをされていたので、私の両手が受け取る体制のまま手持ち無沙汰となった。

「よろしくお願いします。」

その一言と共に閉められた玄関の扉を背に、私と母は３匹の猫を抱えて帰路に就いた。

１号は４文字の名前と水色の首輪。
２号は２文字の名前と桃色の首輪。
名前も首輪もない３号はその身一つ。

元の飼い主に別れを告げられた３匹の猫と家族になった日の話。