
まさか、あの子を偲ぶ想い出日記になろうとは想像もしていなかった……。
去年の11月21日。あの子は突然虹の橋を渡ってしまった。
明日、49日を迎えるので心の整理のため書き記しておこうと思う。
いつものように、仕事から帰宅したらお出迎えしてくれて、日課の遊びとブラッシングをしてあげて、お風呂が沸くまでの時間、私の膝の上に乗ってウトウト……これがほぼ毎日の日課だった。
あの日もいつもと変わりなく、同じようにお出迎えしてくれて、同じようにブラッシングを軽くして(自分からしてくれといつもせがんでいた)私の膝の上に飛び乗ってきてゴロゴロ甘えていた。
しかし、私がちょっとあの子から目を離したその一瞬、あの子は突然私の膝から落ちた。
そして、その時点でもう事切れていた。体はぐったりし、瞳孔は開ききっていた。
突然のことで、私はパニックになった。かかりつけの動物病院に電話をしても夜間でつながらず、夜間救急センターに電話をし、必死に指示通りマッサージをしたりしたが、もうダメだった。旦那に早く帰ってきて!と緊急のラインを打ち、旦那も大急ぎで戻ってきてくれたが、彼は死に目には会えなかった。私は彼が大声で泣くのを初めて見た。それぐらい大変な事が起こったんだと実感した瞬間、体の力が抜けた。
体は暖かいのに。目は見開いたまま。まるで本人も何が起こったのかびっくりしたような顔のままだ。
健康に問題はないはずだった。毎年定期検診を受けさせ、特に大きな問題もなく、ワクチンも毎年きちんと接種していた。ストルバイトの持病があったが、療法食を食べさせ、定期的に診療を受けさせていた。
なのに、なぜ……?
医師に聞くと、状況判断ではあるがおそらく血栓が何かの拍子に脳か心臓にでも詰まったのではないかとのこと。猫の突然死は珍しいことではなく、こればかりは事前に予防もできないので、運が悪かったとしか言いようがない。解剖すればわかるがと言われたが、そこまではしたくなかった。
原因を突き止めたところで、あの子は帰らない。体にメスなんか入れたくない。
あの子を空に返すまでの二日間、私は何も食べられず、水を飲んでも吐くありさま。冷たいあの子を撫でている以外は、ほとんど喋ることもなく、壁だけを見て過ごした。体重は二日で4キロも落ちた。
ああ、これがいわゆるペットロスというやつかと漠然と他人事のように考えていた。
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今から約10年ほど前、長吉はうちにやってきた。
それまで住んでいたアパートから、ペット可の分譲マンションに越して4か月ほどたった3月の初め頃のこと。
突然、長らく音信のなかった昔の友人から連絡が入った。
「うちで猫が生まれたんだけど、よかったらもらってくれないかな?」
長らく会ってなかった友人だが、引越しの連絡を入れたのがきっかけだったのかと思う。
猫を飼いたいということはその友人にも言っていたので覚えていてくれたのだろうが、まだ引越し後で落ち着いていなかったし、突然の申し出で最初はあまり乗り気ではなかった。しかし、せっかくだからと友人の話を聞くことにした。
友人の家には5匹の猫と、1匹の犬が飼われていて、そのうちの避妊をしていなかった1匹が外に逃げ出した時に妊娠し、生まれたとのこと。ハチワレの母から生まれた黒っぽい子猫は「さんま」という仮名を付けられていた。パッと見は黒猫。でもよく見ると毛の根元は白い、いわゆるブラックスモークだった。光の加減によってはグレーにも見え、黒地に縞模様も入ってなんとも不思議な毛色の子だった。
2匹生まれたが、1匹は死産だったそうだ。
生まれたのは2月14日。バレンタインデーで覚えやすい誕生日。
生まれてまだ2週間とのことで、さすがにそんな早くに母親から引き離すのは可哀想だと思ったので、生後3ヶ月を過ぎたらまた連絡欲しいと言って、少し待つことにした。
それまでは、友人から送られてくる写真を楽しみにする毎日だった。
しかし、本来なら5月頃お迎えする予定だったのだが、友人が入院することになり急遽1ヶ月早めて欲しいと言われ、4月の初めにお見合いに行った。
友人曰く、気難しい子でなかなか人になつかないとのこと。私が来る少し前に近所の人が子猫を譲って欲しいと見に来たそうだが、引っ掻いたり噛んだり威嚇して手がつけられなかったらしい。
それだと少し困るなと心の中で思ってたが……なんと、この子はいきなり私の膝の上に上がり、すやすやと寝始めたので、友人が「これは縁があるんだよ!是非もらってやって」と言われ、翌週にはお迎えに行った。

家に着くまでは不安げにキャリーの中で鳴いていたが、家に着くと、キャリーの蓋を開け、私と旦那は他の部屋に行って少し子猫の自由にさせることにした。30分ほど経って見に行くと、あちらこちらに頬を擦りつけ、「これは僕のだ!」となわばり決めの真っ最中。猫じゃらしを振ってやるとすぐに遊び始める。なかなかの大物だった。
子猫の名前はこの子に長く良いことがあるようにと「長吉」と名付けた。
その頃の私はフルタイムの仕事をしており、家を8時間ほど開けていたが、長吉は寂しがることもなく眠っているか、一人遊びが上手だった。むしろこっちが構おうとすると面倒くさがるようなタイプだった。
カリカリの入った袋を破いて部屋中にまき散らしたり、レースカーテンや障子をビリビリに破いたりもしたが、そんなのは序の口。いたずら大好きで小さな大魔王だった。
何度かの膀胱炎とストルバイトがある以外はほとんど病気らしい病気をすることもなく、健康優良児だった。

夏は廊下に貼られたタイルの上、冬は窓辺の陽だまりに置いた椅子の上が指定席。
真冬になると布団の中にこもる。客用の布団を干したらその上でヘソ天。こっちが心配するまでもなく、自由に毎日を楽しんでいるようだった。
抱っこは嫌いでほとんど抱かせてくれず、首輪も嫌いで何本も食いちぎって外したので、首輪も諦めた。
膝にすら乗りたがらない。乗せても逃げるクールな子だったが、5歳を過ぎる頃から甘えん坊に変わってきた。
突然膝の上に乗りたがり、私の行くところ行くところストーカーのように付きまとい、帰ってきたら出迎えをするようになった。一度膝の上に乗ると最低でも一時間は降りてくれなかった。
夜になると布団で一緒に寝るようになった。私が寝室に行かず、うたた寝してると起こしにくるほどになった。
歳をとったのかなあ……と漠然と感じていた。きょうびの猫は15歳ぐらいまでは生きると聞いてるし、まだまだこの先も楽しい毎日なんだろうと思っていた矢先だった。

先月の月命日の明け方、初めて夢に出てくれた。
どんなに望んでも夢に現れてくれなかったのに、「どうしたの!どこ行ってたの?探したよ」と言うと、いつものように膝の上に乗ってくれた。
暖かさと柔らかさがリアルだった。そして、ふと姿が消えたと思ったら真っ黒でコロコロした見たこともない黒い子猫が膝の上に乗っていた。
そこで目が覚めた。
ああ、ひょっとしたらこれから毛皮をお着替えしに行くのかもしれない
お着替え予定の姿を見せてくれたのかも。そんな気がした。
目が覚めた時、ものすごく幸せな気分で、そして春になったら会える気がした。また男の子のような気がした。
だから、もう少し経ったらお前の生まれ変わりを探してみるよ。
旅立つ時に、「毛皮お着替えして帰ってくるんだよ」って何度も声をかけたから、きっとまた会える気がする。
今は各部屋にあの子写真を飾っている。
「行ってきます」「ただいま」と毎日声をかけている。
もし、新しい子をお迎えすることになっても絶対に忘れない。その子がたとえ生まれ変わりでなくても、たくさんの愛情を注ぐよ。多分、それがあの子が一番望んでいることだろうから。
楽しかったよ。ありがとう。おやすみ。
また会おうね
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