私が居間にいても、特に警戒する様子もなく、かと言って、むうたの方からすり寄ってくることもありませんが、寝ているところをなんとか頭を撫でられるぐらいにはなっていました。
むうたは、人間に追い払われ続けた今までのつらい経験から、人間とは一定の距離を保っているように見えました。
その日、私はむうたの側に座って様子を伺っていました。
すると、寝ていたむうたが体を起こして近づいて来ます。
特にむうたが興味を持ちそうな物は持っていなかったので、
「???」
私の横に座ったむうた。
さらに
「?????」
な私。
じっと座っている私のひざに、むうたが片手をかけて、じっと何かを考えている様子。

「ま、まさか…」
これから起こるであろうことにドキドキしながらも、とにかく動いてむうたを刺激してはいけないと、体を硬くしていると、なんと、むうたがひざに乗ってきたのです!
「むうた、抱っこなの?」
むうたは、たどたどしいながらも、完全に抱っこの体制です。
今まで抱っこなんてしてもらったことがないのか、ひざに乗ってみたのはいいけど、この後どうしたらいいのかわからず、ひざの上でちょこんと座ったまま、もぞもぞと落ち着きのない様子。
「むうた、いいんだよ。抱っこして欲しかったんだね。甘えたかったんだね。いいんだよ。甘えていいんだよ」
思い切りむうたの頭を撫でてあげます。
人間に捨てられ、裏切られ、追い立てられ、今まで散々つらい思いをしてきたむうた。
抱っこしてもらう方法さえわからなかったむうた。
抱っこしてもらいたくても、
「振り払われたらどうしよう」
と不安だったに違いありません。
それでもむうたは勇気を出して、一歩踏み出しだのです。
小さなむうたの大きな一歩です。
その日からむうたは私が居間にいると必ずひざに入ってくるようになりました。
抱っこ猫むうたの誕生です。
抱っこされているむうたは、とてもおとなしく、何をされても絶対にひざから出ません。
そこで、むうたの体を少しでもきれいにすることにしました。
なんせ、むうたの体は相変わらず、よだれでボロボロ、バリバリに固まって、濡れた犬のにおいがしていたのですから。
洗面器にお湯を入れて、暖かい濡れタオルで手や脚を拭いてみます。
飴状に固まった毛は全然きれいになりません。

それでも毎日、シャンプータオルで拭いた後、暖かいタオルで体を拭き続けました。
何日も何週間も。
どうしても取れない汚れは、毛をカット。
少しずつですが、むうたの体はきれいになってきたように思います。
何をされてもむうたは嫌がらず、されるがままにしています。
多分、本当は嫌だったと思います。
でも、
「ここに居たい。ここがむうたのおうちだから、ガマンしなくちゃ」
と思って耐えていたのかもしれません。
「ごはんがなければ、ち○〜るを食べればいいじゃない」
という、生粋のお嬢さま気質のちまさんと違い、
むうたは
「むうた、いい子にしてるよ。嫌なこともガマンするよ。だから、むうたのこと嫌いにならないでね。むうたのこと捨てないでね」
と身体中で訴えてきているような子でした。
少しずつ、少しずつですがむうたの汚れは落ちていきます。
ですが、口内炎が治っていないので、よだれダラダラのお口で毛づくろいすると、またすぐに汚れてしまいます。
こりゃいかん。
抱っこできるようになったら、次はお口の治療です。
いよいよ本格的な闘病の始まりです。
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