
昨日、四国で「最も困難」と言われる、
徳島と高知の県境に位置する石立山を登りに行った。
これはもちろん、一般道に限った話で、
藪漕ぎする覚悟があるなら、もっと困難な山はいくらでもある。
ほとんどの人は高知県側から登るのだが、
徳島県側の日和田登山口のほうが、5kmばかり家に近いこともあって、
こちらにした。
登山を開始してから10分ほど歩くと、
途端に登山道がロストする。
この辺りは、作業林道が入り組んでいることと、
こちらから登るニンゲンが少ないことと相まって、
明確な踏み跡や、いかにも登山道な道が、必ずしも登山道ではない。

三度ほど行きつ、戻りつし、
もうあきらめて帰ろうかと思っていたとき、
草むらの上方に猫がいて、こっちの様子を見ているのが目に留まった。
下の集落の一軒家で飼われている猫だろう。
「え? まさかそっちなの?」
草むらの中を覗き込むと、確かに踏み跡らしいものがある。
ただ、上に畑の跡や倉庫があって、そこに行く人が通るような、たどたどしいもの。
踏み固められた感覚もなく、フワフワしている。
試しに上がってみると、そこに道があり、そこからは明確に登山道となった。
いつの間にか猫はいない。

台風のあとで崩落したり、
沢の水がオーバーフローして、渡渉を余儀なくさせられる箇所もいくつかあったが、
特に難所らしい難所もなく、山頂へ。
ただ、斜度がきつく2時間ほどえんえん急坂を上り詰めるので、
困難と言えば困難だろう。
私はむしろ、下りが怖かった。
不思議なこともあるもんだなぁと思う。
あのタイミングで猫に会えなければ、
私はこの日、石立山の山頂に立つことはなかっただろう。
あの子が、道を教えてくれたのだ。
下山の終盤、遠くにその一軒家が見える。
その家の庭を、のんびりと先ほどの猫が散歩していた。
家の主は、隣接した園地で草刈りをしていて、
そのエンジン音が谷に響いている。
楽しい山行だったなと思う。
それでも、あの子がいなければ、
悪い思い出だけで、気持ちも消化不良で帰っていただろう。
つくづく、私は猫というものに守られているのだと思う。
この間、埋葬した猫の、ちょっとした恩返しなのかもね。



















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