先日のブログに少しだけ書いた出会った日についてまたひとりごとを綴ろうと思います。
2021年8月24日のことでした。
仕事の繁忙期が近く、今の何倍ものノルマがあり、連日締切や作業に追われていたのを覚えています。昼過ぎ、一段落した頃に部屋の窓を開けて風を浴びていたら赤ちゃんの泣き声が聞こえてきました。隣のおうちは今日もお孫さんを連れてきているのか、そんなことを思いながら何も気にせずにまた作業に戻りました。季節のせいもあり、お隣さんもお2階の窓を開けて、たまに子供の声が聞こえることもあったので何も珍しいことではありませんでした。
その日の夕方に買い物に出て、18時頃に家の前に着く頃に違和感を覚えました。先程の泣き声がまだ聞こえてくるのです。しかも外でないている様子。その時に初めてこれは赤ん坊ではなく子猫の声だと気が付きました。でも、飼い主がいるならきっとこの声を聞いて見つけてくれるはず、野良の場合人間が干渉してしまうと親猫が警戒しちゃう、そう考えながらそのままおうちの玄関を潜りました。
家に帰ってパソコンを見ると仕事のメールが届いていて、担当グループの変更が発表されていたり、月末までに仕上げないといけない仕事をたんまり受信していました。夫は夜勤で夕食も帰ったタイミングになるので、その後も仕事の続きをすることにしました。
夜になり、やっと仕事の終わりが見えてきた為一旦仕事を閉じて、ゲームのイベントを楽しみました。この日もゲーム上の仲間達と勝利を喜び、いつもなら終わったあとも雑談をするのですが、残りの仕事を終わらせようとボイスチャットをログアウトして、夜風に当たりながら仕事を再開しました。窓を開けて作業を進めていると、しーんと静まり返った住宅街に昼間より少し元気の無くなったあの鳴き声が響いていました。『夕方の子まだお外にいるの?』少しだけ胸がざわつきましたが、今日中に送信したい仕事に追われて気になっても見に行けない状況でした。
時刻は23時になる頃、あとは最終確認と翌日の仕事の確認だけになったのでお外に様子を見に行きました。よーく耳をすますと、鳴き声は向かいのアパートの車の下から聞こえてきました。ゆっくりと近づき覗き込むと、子猫は鳴くのをやめました。車の下は真っ暗でどんな模様かも分かりませんでしたが、うっすらと見えるのは小さな身体に大きな耳、怖がっているのか大きく見開いた目で警戒してこちらをじっと見ているのが分かります。試しにアスファルトを爪でとんとんと叩いて、出てきてくれるか試しましたが、全く同じ体勢で動こうとしません。私もこの時は鳴き声の主を確かめたかっただけだったので、誰かにいじわるされてるわけでもなく、どこかで動けなくなってるわけでは無いことを知り、早くお母さんに見つけてもらいなね、そんなことを思いながら家に戻り、日付が変わる前に仕事を終わらせました。
日付が変わって深夜1時。
その日の午前中にはミーティングがあったので、夫が帰ったら早めに寝よう、そう思いながらふと子猫が気になりベランダに出ました。夜は更けてるはずなのに空気は2時間前に私が外に出た時よりも蒸していて、何よりも気になったのは声が先程より遠くから聞こえてくることでした。見に行ってちゃんと自分の目で確認したのに、様子を見に行く前よりも自分の胸がざわざわとして落ち着かず、何故か夫に『外に子猫がいる』とだけLINEを送りました。
1階に降りてキッチンに向かい、無意識にお出汁に使う煮干しの袋を片手に持っていました。野良猫に軽率に食べ物を与えてはいけない、私が今しようとしていることはきっと間違っている、でも見えなかっただけで怪我をしていたら…?そんな迷いと葛藤がありましたが、家を出てもう一度声の主を見に行くことにしました。
声がしたのは我が家より3~4軒離れた駐車場の車の下からでした。様子を見ようにも、やはり怖がってその場を動こうとしないので子猫から見える位置に1つ煮干しを置いて、しゃがんだまま2~3歩後ろに下がりました。すると、薄暗い住宅街の道路によちよちと、ガリガリに痩せ泥を纏った子猫がくんくんと匂いを嗅ぎながら姿を現しました。真っ暗な影から出てきたのを見て、その姿をよく見ようと前のめりになると、その子はビクッと身体を跳ねさせて車の下に戻っていきました。もう一度姿を確かめようと、煮干しをつんつんと指でつついて後ろに下がり、出てくるのを待ちました。またよちよちと近づいて煮干しの匂いを嗅ぎ、食べ始めました。上手く噛めてないようで、咥えては落とし咥えては落とし、外灯に照らされた私をはっきりと認識し、警戒しながらも煮干しに食らいつく子猫。『怪我をしていないか確認するだけ、本当にそれだけ。』と自分に言い聞かせながら薄暗くてよく見えないその姿をはっきり見ようと、今度は自分の足元に煮干しを置き、また1歩下がりました。
(携帯のライトで照らせば一発、とも思うのですが、祖母の家に住み着いてしまった猫や猫カフェの猫ぐらいしか接したことがなかったので、その光を直接見ることで目に何か影響があったらどうしよう…と考えてしまい出来なかったのです)
少し明るい場所で見る『泥を纏った』子猫の姿にびっくりして息を飲みました。腕や耳にびっしりとこびりつき、外灯の下で黒く光るものの正体がエンジンオイルだとこの時初めて気が付きました。あぁ、どうしよう。この子は一体どうしたら。おどおどしながら子猫に手を伸ばそうとすると、シャーッと威嚇をし1歩後ろにさがります。正直エンジンオイルの付着が成長や身体にどんな影響があるのか素人の私には分かりませんでしたが、害があることは間違いないはず。私は頭の中で必死にこの子の助かる道をシュミレーションしていました。泥じゃなくてオイル。雨じゃ絶対に落ちない。ずっと鳴いてるのに誰も迎えに来てない。万が一の場合この子は誰が生かしてくれるのか。誰が。
地面に落ちた煮干しを拾い、子猫に向けました。恐る恐る近づいて口に咥えた瞬間にお腹から子猫を抱き上げました。嫌がって小さな手から爪を出し、か弱い声を精一杯荒らげ、歯のない口で噛み付いてくる子猫に対し、ごめんなさいごめんなさい、関わってしまった以上私がこうするしかないみたい、まるで誘拐をしている様な罪悪感と不安と闘いながら家の玄関を開けました。
煮干しの袋を玄関に放ったまま、私の部屋に急いで連れ帰りました。見た限り血を流してる様子もなく、怪我はなさそうでした。小さな段ボールに子猫を入れようとしましたが簡単に跳び出して、PCのスピーカーの裏に隠れてしまいます。バタバタと1階に行き、夫の実家から送られてきた大きな荷物の箱を今度は持っていきました。次に汚れても構わないタオルと、ちょうどいい大きさの器がなかったので我が家のおたま立てに水を入れ段ボールの中に入れました。
でも、放っておけなかったとはいえ攫って怖い思いをさせた私を警戒しないわけがありません。段ボールを覗き込み見下ろす私に、シャーシャーと威嚇をするばかりで隅から1歩も動こうとしませんでした。こんな真夏日に外でずっと鳴き続けていたのだから喉くらい乾いているはず、せめてお水だけでも飲んで欲しい。そう思った私は器の水を指につけ、子猫に向けました。また子猫は恐る恐る確かめて、それが水だとわかると今度はちゅぱちゅぱと水を舐め取りました。いくらでも飲んでいいのよ、カツンカツンと指で器をはじくとやはり久しぶりの飲水だったのかごくごくと夢中で飲み始めました。
一安心しましたが、ここでひとつ問題があります。何も知らないであろう夫がこれから帰ってくることです。最初に様子を見る前に送ったLINEを確認しました。『気になるなら様子見に行ってみ』と返信がきていました。『車のオイルまみれの子が1匹』『ごめん、手ぇ出した』と伝え、仕事が終わる頃にちゃんと手を洗うんだよ、と優しく返してくれた夫。私は早々に『いや、招いてしまった』と白状しました。その後電話にて事情を説明、猫がどこかの車の中に入って今の姿になった可能性があることや、今日の出来事、私のその時の迷いや心境を一通り話し、この子のご飯は私の給料から出すからお世話をさせて欲しいとお願いしました。24時間営業のドラッグストアが近所にあるので、そこで子猫の食料を調達することを伝えると、1度その子を確認して一緒に買いに行こうと言ってくれました。
我が家は夫婦共に猫を飼ったことがないけれど、調理器具や小物、カーテンの柄も猫柄で揃えており、時々猫カフェに行く私に夫が付き添うこともありました。コロナ禍が始まった頃、仕事も休みで一日中YouTubeで保護猫動画を観て「猫を拾いたい!」と夫が言った時期もありましたが、数を観ていくうちに心が痛くなる現実や、命の儚さ、覚悟を伴うことを知り、その気持ちはすっかり薄れていた頃でした。
夫が帰り、子猫の姿を一目見ると眉をひそめて「この子本当に大丈夫?」と聞いてきました。母親すら現れなかった子猫です。何か私たちには分からない病気を持っている可能性だってあるし、更にエンジンオイルにまみれています。充分不安になる姿でした。「ある程度解決したら里親だね」と告げられ、ご飯を買いに行く準備をしました。
買いに行く頃には、外はぽつりぽつりと雨が降り始めていました。
✂︎- - - - - - - -キリトリ- - - - - - - - - - -
今日はここまでにして少しだけ寝ようと思います。
おやすみなさいませ。
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