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日記連載創作猫物語、「虹になるまで」 第七話 その一
2009年10月10日(土) 540 / 18

        「見返り岩」

          一

 見返り岩に、レオとヤマネコがやって来ていた。

 一本松と泉の中間位のところ、広場から森へ続く道の反対方向に進んだ場所にあった。

 丘陵からせり出すように大きな平たい岩がある。岩の向こうはいつも、もやに隠れていてどのような景色になっているのか見た者はいない。

 岩より先へは決して進む者はいなかった。

「これが見返り岩か」

 ヤマネコが岩を見上げている。

「本当に見えるのか、今の現世が。俺のいた場所が」

 ヤマネコは後ろに控えるレオを振り返っていた。

「目を瞑り、心を静めて、見たい場所、見たい者を思うのです。すると現世で関わりのあったものが見えてきます。関わりが強ければ強いほどはっきりと見えるはずです」

 落ち着いた口調でレオが教えている。

 ヤマネコは気持ちを鎮めるように大きく息を吐き、ゆっくりと岩に登った。

 岩の上で前足を揃え、静かに目を瞑った。レオは岩の下で静かに待っている。

 ゆっくりと時間が過ぎていく。現世での辛い出来事がヤマネコの脳裏に浮かんでは消える。なかなか集中できない。

「何も見えないじゃないか。嘘つきやがったな」

 ヤマネコがイラつきながらレオを罵倒した。

「気持ちを鎮めるのです。見たい気持ちと見たくない気持ちが反発しているのでしょう。心を見たい事一つに集中するのです」

 レオは目をつぶったまま、ヤマネコを見ることもなく諭した。見返り岩に初めて来たものがなかなか現世を見ることが出来ないのを知っていた。一度にたくさんの事が頭をよぎり、集中できていないのだ。

「見たくない気持ち、そんなもの……」

 ヤマネコは迷いを振り払うように頭を振った。気持ちを取り直し、レオの言葉を信じてもう一度目を瞑った。

 一番見たいものを思う。

 気持ちを鎮め集中した。

 風もない見返り岩に佇むヤマネコをゆっくりともやが包んでいく。グレーと黒の混ざった体が白いベールに霞んでいく。

 ヤマネコの真っ白だった頭の中に、すっすらと緑色の陰が浮かび上がり始めた。

 ぼんやりとしていたのもが少しづつ形になっていく。
脳裏に浮かんできたのは鬱蒼と茂った森だった。

 奥深くの樹々に囲まれるようにして寛ぐ雌猫の姿が浮び上がってきた。

 その胸には小さな赤ちゃんが二匹、むしゃぶり付いていた。
間違いない、無事に産まれていたのだ。


 
 ヤマネコは現世で、臨月間近の母猫のため餌を探している途中で罠に掛かった。

 帰りの遅いヤマネコを探しに母猫も来ようとしたが、遠くから「危険だ。来るな」と叫んで遠ざけた。

 不安な気持ちが産気づかせたのか、程なくして母猫は二匹の子猫を産んだ。

 どんどん小さくなっていく父であるヤマネコの声。母猫は仔猫を連れて探しに行くわけにも行かず、ただお乳を与えながら帰りを待ち続けていた。

 しかし、ヤマネコは帰ってこなかった。



 見返り岩の上で、身動きもせずにヤマネコは現世の様子を見つめていた。

 初めて見る我が子の愛おしさに時の経つのも忘れている。

 無意識に流れる涙が輝いていた。

 落ちた涙が足元を濡らし、我に帰った。静かに目を開け、気持ちを整理するかのように大きく深呼吸をした。

 もやに包まれたヤマネコをレオは見る事ができなかった。



 ヤマネコはもう一度目を瞑った。身動きもせずに集中している。
 
 今度はすぐに現世が見えてきた。



 先ほどとは違った森が見え始めた。

 もっと開けた場所だ。雑木林に囲まれたところで何やら動く物が見える。人間だ。何かを取り除いている。出てきたのはイノシシを捕まえるための大型の罠だった。

 取り出すと、横の方へ積み上げていく。すでに幾つか取りはずしたらしい。

 なぜ、取り外すか分からなかった。

 もう一度最初の場所に目をやると、取り外した罠の側に花が手向けてある。

 そここそがヤマネコが罠に捕まり、逃げる事が出来ずに力尽きた場所だった。



 どんなにもがいても罠は取れなかった。骨にまでがっちりと罠の歯が食い込んでいる。動けば動くほど肉が引き裂かれた。出血もひどく、意識も朦朧となりだした。それでも家族に危険を知らせる為、力の限り鳴き続けた。決して近付かないように鳴き続けた。

 その声は、次第に弱くなり、ついに力尽きた。



 朽ち果てた自らの屍があると思っていた場所に花が手向けてある。

 どういうことだろう。ヤマネコは混乱した。

 自分たちを苦しめるだけの存在であるはずの人間が死んでいたヤマネコを弔っている。

「これはどういうことだ」

 ヤマネコが目を見開くと、もやが見返り岩を滑り落ちるように消えていった。

「何か見えましたか」

 静かにレオは声を掛けた。

「俺が死んだ場所に花が手向けてある。なぜだ。人間は俺たちの敵のはず。それなのになぜ花を手向ける」

「私はあなたがどのような暮らしをしてきたか知りません。ただ、人間に憎しみを持ったまま亡くなったことだけは理解できます」

 レオはヤマネコの気持ちを静めるように、冷静に、ゆっくりと話し始めた。

「確かに憎むべき人間も現世にはいます。捕らえたり、虐待したりする者が。でも、すべての人間が悪いのではありません。私は現世で人間に世話を受けていました。そんな私の言う事なんかに耳を貸しては下さらないかも知れません。しかし、猫たちを保護し、里親を探し、助けるために私財を投げ出して活動しているのを見てきました。野良猫たちを地域猫として、去勢、避妊手術の手助けをする人間もいます。野生のあなたには理解できないかもしれませんが」

 レオは真っ直ぐにヤマネコを見ている。

「そんな事があるものか。人間が猫を助けるなんて」

 ヤマネコは驚いた表情で見返しながら、頭を横に振った。

「物事を一つの方向からだけ見ていては分からないものです。反対側から見たり、一歩下がって見ることで全体を理解できる事があります。大きな視野で見るのです。相手の立場に立てば理解できることもあります」

 人間に敵意しか持っていなかったヤマネコの気持ちをほぐすようにやさしく話していた。

 レオの言葉にヤマネコの脳裏には現世でのことが思い出されていくのであった。



つづく


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

いかがでしたか、今回のお話。
 
 ついにヤマネコの現世での様子が分かりましたね。

 辛い過去を持っていたのです。

 だからこそ、人を憎み、家猫達を嫌っていたのです。

 しかし、人間達の本当の姿を見て少しづつ変化が現れていきます。

 複雑なヤマネコの心理描写、皆様に届いたでしょうか。

 なかなか難しいところでした。

 ピースの様子が分かるのもまもなくです。

お楽しみに。

 さて、猫川柳二連覇達成した「長崎ねこ」学会の日記に今度はチップの画像が掲載されました。

 見事なソフトクリーム状のシッポをご覧ください。
 
 http://plaza.rakuten.co.jp/nagasakineko/

 ちょっと涼しくなるとこうして仲良くくっ付いている僕達です。

     


 Byホワイト
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