ゲンさんちの猫

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平成17年夏に猫を保護してより飼育中の初心者です。

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日記連載創作猫物語、「虹になるまで」 第八話 その二
2009年11月7日(土) 499 / 15

         二

「やめろ、二匹とも」

 威圧感のある太い大きな声が丘陵に響き渡った。

 言い争っていた猫たちは静まり返り、一斉に声のする方を見上げた。

「野生で暮らしてきた俺にはお前の言いたいことが良く分る。俺も、人間を敵としか思っていなかったからだ。その人間に世話をしてもらっていた猫は人間の仲間だとしか思えなかった」

 猫たちに向かって叫んでいるのはヤマネコだった。後ろ足に血が滲んでいるようだ。泉から離れていた為に傷が再発してきたのかもしれない。

「イリオモテヤマネコじゃないのか」

 見上げた猫の中からさやきあう声が聞こえてきた。

「俺は南の島で野性として暮らしていたイリオモテヤマネコだ」

 初めて見るものは驚き、その太い声と逞しい体に見惚れていた。

 

 少し前、レオはヤマネコのスピードについていけず、遅れて来た。広場に着いた時、目にしたものは、丘陵で暮らす猫たちが二手に別れ言い争っている場面だった。

「あれは、初島の野良猫たちです。チップといがみ合っている」

 肩で息をしながら、坂の上に立つヤマネコの背後にそっと近付いた。

「彼らも、あなたと同じように現世では人間たちに翻弄された猫です」

 レオの目は悲しそうにしている。同じ現世に生まれながら、不幸な生涯を強いられた猫たちが多い事に心を痛めていた。

「初島は人間たちが農作物を栽培してきた小さな島です。ところがねずみによる被害が後を立たなくなりました。そこで考え出されたのが猫によるねずみの駆除です。人間たちは本土から猫を連れてきては山に離しました。猫の餌となった野ねずみたちは数年後には駆除されました」

 レオは野良猫たちを見下ろしている。その視線を曇った暗い空に上げ、悲しみを堪えるように話しを続けた。

「ところが人間は、駆除のために連れて来た猫たちが邪魔になりはじめたのです。猫たちはねずみも、ヘビもカエルも食べつくしてしまいました。餌に窮するようになり、仕方なく人間達の生活圏に入り込んでいったのです。野放しだった猫たちは子孫も増え、一時は島の人口よりも猫の方が多くなったくらいです。当然、糞尿による苦情も増えてきました。島の人間たちはこの状況を改善するために愚かな選択をしてしまいました。罪も無い猫たちに餌を与えないようにし、餓死させる選択をしたのです。猫たちは餌の取り合いとなり傷つき死んでいくもの。やせ細り餓死するもの。餌を求め波に飲まれるもの。人間たちの為に連れてこられた猫たちが、人間たちの手により迫害されていく。そんな状況を作り出した人間を彼らが許せるはずがありません。どこの猫よりも人間に対する憎しみが激しいかもしれません」

 レオの目から悲しみ色の涙が零れてきた。頬を伝う涙は輝きながら足元に落ちていく。

「しかし、そのような人間たちばかりではありませんでした。愚かな行いを改め、野良になっている猫たちの餌や糞便の処理を行い、不幸な猫たちが増えないように虚勢や避妊を始めた者がいると聞いています。島の猫たちも人間に少しづつ心を開き始めました」

 ヤマネコは言い争う猫たちを見ながら、背中から聞こえるレオの話を黙ってきいていた。

「俺と同じような境遇だったのだな。いや、俺よりももっと辛かっただろう。ならば彼らにも気持ちが通じるかもしれない」

 ヤマネコは大きくうなずいた。自分が生まれてから憎み続けた人間たちを許すことが出来た現世での様子を、見返り岩で見て来た事を話し始めた。


 
 広場では、チップの後ろにライカが駆け寄って来た。 

「ありがとうチップ。助かったよ」 

「これでライカへの借りが返せたね」

 橋のたもとではじめてヤマネコと出会った時、襲われそうになったのを救ってくれたのはライカだった。

 チップは振り返り微笑んでいた。しかし、その微顔もすぐに厳しいものに変わり、他の猫たちと同じようにヤマネコを見つめた。

「一つの事を一方からだけ見ていては全体が見えないということを俺はここで初めて教わった。人間が悪い生き物だという事を忘れ、猫との触れ合いを見てみると、俺たちの為に一生懸命やっている者がいることが分かったのだ。迫害を受けた俺たちを保護しようと山に入って活動する者。傷ついた仲間を治療する者。同じ人間たちなのだ。確かに悪い奴らもいる。しかし、それはごく一部の人間だ。もっと大きな視野で全体を見るんだ」

 静まり返った猫たちはヤマネコの話に聞き入っている。

「お前たちはまだ現世に未練があるのだろう。もう一度戻って生きたいと思ったことはないのか。野を、山を、駆け回りたいと思わないのか。仔猫は現世に戻れるかも知れないのだ。俺たちの分まで生きさせてやろうじゃないか。俺と同じ境遇を過ごしてきたお前たちなら分かるはずだ」

 ヤマネコは言葉を止めて大きく息をした。

「俺も我が子に会えぬままここへ来てしまった。人間達が仕掛けた罠に掛かったのだ。どれほど人間たちを憎んだ事か」
必死に訴えるヤマネコの目にうっすらと涙が滲んでいた。辛かった現世での事が胸に蘇ってきたのだろう。

「今、見返り岩で見てきたのだ。俺の仔は母猫と元気に過ごしている。その山では人間たちが自然のままで俺たちの仲間を保護する活動をしていた。もう俺のように罠に掛かって命を落とすこともあるまい。だからお前たちにも分かって欲しいのだ。今の人間たちの行いを認めて許して欲しい」

 頬を伝う涙がヤマネコを離れ足元に落ちた。

 地面に落ちた涙は、レオが流した涙とお互いを捜し求めていたように球になり転がってひきつけあった。ぶつかり、溶け合った涙は輝いて空中に飛び散った。真っ暗だった丘陵に光の粒がきらめいている。光の粒は野良猫たちのもとへ降り注いだ。光輝く涙のシャワーを浴びた野良猫たちに変化が現れ始めた。

「そうだな、現世に帰れるんなら帰りたいものな」

 意地を張っていた野良猫たちの中に、ヤマネコの主張にうなずく者がでてきた。

「戻せるなら、戻してやっていいのじゃないか」

「お前ら、あんな奴の言う事を間に受けるのか。どうやって戻す。まだ、目も開いていないらしいぞ、歩けやしないんだ。食っちまった方が早いじゃないか」

 野良猫たちの間で意見が割れ始めた。

「だから、それを皆で協力しようとしているのではないか」

 まだ、納得できない野良猫に向かいヤマネコが訴えている。

「方法ならある。森の精霊が教えてくれたんだ」
 黙ってヤマネコを見ていたチップが遂に立ち上がった。丘陵の猫たちがいっせいにチップの方を振り返った。

「ほう、聞かせてもらうじゃないか」

 食ってしまおうと言っていた野良猫も気持ちに変化が現れ始めたのか、チップの話を聞く気になったようだ。

 チップはヤマネコの元にゆっくり歩いていった。

 いつ来たのだろう、ヤマネコの後ろにはチャーミー、それにおばさんに連れられたピースもいる。

「みんな来ていたんだ」

「チップ、大変だったらしいわね。さっきレオから聞いたわ」

 チャーミーはチップに擦り寄り怪我したと聞いた脚を舐めてあげた。

「ああ。でも大丈夫。心配ないよ」

 久しぶりにあったチャーミーにチップも嬉しそうに微笑むのだった。


つづく


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

いかがでしたか、今回のお話。

 シルエットはヤマネコでしたね。

 とっても格好良い登場の仕方。

 随分とイメージが変わったようです。

 チップにより閉ざされていた心を開かれたヤマネコ。それが今度は野良猫たちの心を開かせる役目を担います。

 今回のお話の中で、ちょっとした見せ場にしたかったのですが、いかがだったでしょう。

 皆さんにもヤマネコの気持ちが通じましたか。
 
 次回は、御無沙汰していたお友達もほんのちょっと出てきます。
 
 お楽しみに。

Byホワイト

 さて、「長崎ねこ学会」の10月の猫川柳の発表がありました。

 三連覇を目指していたのですが、残念な事に第三位となりました。

  http://www.nagasakineko.com/senryu/excellent.html

  


 雪辱を期し、また投稿してきます。

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