チップたちを中心にして猫たちが集まった。どうやって仔猫を現世に返すのか聞くためだ。その中には、ピースを一番初めに抱いていた長毛のチャコ麻呂やチップたちに泉の水が減っていると教えてくれたキジトラのチョコもいた。耳がただれ苦しんでいたジャッキーも来ている。
丘陵で暮らす猫たちは体調が悪くなりだし、自然と泉の近くに集まっていたようだ。
チップは一段高い場所に立ち、森の中で精霊に聞いたことを話し始めた。
「人間が亡くした猫を思い最初に流す涙の粒。その涙に亡くなった猫自身が触れることが出来たら、人間の涙に込めた思いが叶うはずと告げられた。泉の水は人間の流した涙で出来ている。僕たちの事を思い、流してくれる涙で。だからこそ、僕たちはここで現世での傷ついた体と心を癒す事が出来るんだ。人間がピースにまだ生きていて欲しいと願っていてくれれば現世に戻ることが出来ると教えてもらった。僕は人間を信じる。きっとピースが生きて欲しいと願っているはずだ。だから今は現世に戻す事に力を貸して欲しいんだ」
「俺もそう思う」
ヤマネコが力強く立ち上がった。人間を憎み、敵視していたヤマネコが、チップやレオに助けられ生まれ変わった姿をチャーミーは潤む目で静かに見つめていた。
「でも、いつ涙を流すか分からないのではないか」
野良猫の中に不安を口にするものがいた。
「そうなんだ。それで、長老と相談してきた作戦にすぐに取り掛かりたいんだ。良く聞いて欲しい」
チップはみんなを見渡し一呼吸置いた。
「ピースの現世での様子を見ることが出来るのはヤマネコさんだけ。それでヤマネコさんには見返り岩に行ってもらいます。現世のピースに付き添っている人間から目を離さないように。レオさんはヤマネコさんのそばにいて下さい。問題が起こったときに対応できるように」
チップはヤマネコとレオを交互に見ている。ヤマネコは任せろと言わんばかりにしっかりとチップの目を見返してきた。
「おばさんはピースを連れて、チャーミーと一緒に泉で待機していて。涙の粒をすぐに付けられるように泉のそばに。僕もそばに居るから」
チップはピースを見つめている。
「分かりました。しっかりとこの仔を見守りますよ」
おばさんは大きくうなづき、胸に抱いたピースを愛おしそうに舐めている。
「ヤマネコさんは現世でピースに付き添っている人間から涙が流れたらすぐに泉の方へ教えて欲しいのです。君の声なら泉まで届くはず」
「分かった。それでどうやって仔猫に涙を付けるのだ」
ヤマネコが言うと皆の視線がチップに集まった。
チップはごくりとつばを飲み込むと、覚悟を決めたように皆に伝えた
「大丈夫なの」
チャーミーが心配そうにチップを見ている。
「大丈夫さ。長老が考えてくれた作戦だ。間違いはない」
集まった猫たちの不安を払拭するような力強い言葉だった。
チップはみんなを見渡し、喰ってやると言っていた野良猫に視線を合わせた。
「まあな、お前がそこまで覚悟決めてやるのならお手並み拝見といこうか」
なかなか素直になれない野良猫だ。
「僕には森の精霊が付いている。それに後押ししてくれる皆がいる」
チップの目が輝きを増したように見えた。
「ピースを現世に戻してあげたい、その気持ちがあれば必ず成功するさ。僕を信じて」
チップの自信に満ちた言葉がみんなを勇気付けた。
「人間の涙が落ちたら見返り岩から叫ぶぞ。聞き逃すんじゃないぞ」
ヤマネコはそう言うとチップに歩み寄り耳元で何事かを伝えている。
うなづきながら聞いているチップの眼差しが一段と厳しいものになっていく。
「頼んだぞ」
ヤマネコはチップの顔を額で押すようにすると、レオと共に見返り岩を目指し駆けて行った。
チップは作戦の成功を祈るように二匹の後姿を見つめた。
二匹の姿が見えなくなると、残った猫たちのほとんどが泉に向かい移動を始めた。
チップの後ろにはピースを咥えたおばさんと付き添うようにチャーミーが歩いている。
いよいよピースと別れの時が来ようとしていた。何もしらないピースは未だ目も開けずすやすやと眠ったままだ。いつまでも側に居てやりたい。
しかし、誰一人として別れを悲しんでいる者はいなかった。
自分達の分まで、現世で寿命を全うして欲しいと願うものばかりだったからだ。
つづく
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いかがでしたか、今回のお話。
さあ、第八話もこれで終了です。
残すは、第九、十話のみとなりました。
次回からはピースを現世へ返す作戦がいよいよ開始されます。
上手くいくと良いですね。
まだ書ききれていないことがいっぱいあります。
そんなお話も今から出てきますので、まだまだ目が離せませんよ。
次回もお楽しみに。

昨日は雨で憂鬱な一日でした。
Byホワイト
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