鞠緒さん

鞠緒

兵庫県 30代 女性 ブロック ミュート

猫飼い歴=年齢。 一度はその栄光の歴史が途絶えてしまうも、僅か4日で復興。 現在は1号(♂)と2号(♀)と3号(♂)と4号(♂)の4匹が在籍中。

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147日目「これは全て“夢”の話です。」
2026年5月9日(土) 80 / 0

猫達の日光浴の為にカーテンを開けるが、まだ部屋の中を照らし切るには些か早い時間帯だった。
布団から抜け出すのは少し勿体ない気もするが、二度寝をすると昼になっている事は自明の理である。

「…ん?」

ポテポテと猫のトイレ掃除に向かう途中、違和感を覚える。
ショボショボとする寝ぼけ眼の端に、奇妙な物が映り込んだ。

「何かいた…。」

我が家は居間と玄関の間に扉がある。
その扉が少しだけ開き、玄関側から居間側に向かって何者かの顔がコチラの様子を窺うように覗き込んでいたのだ。

…あり得ない光景だった。

寝起きの悪さに定評のある私だが、ソレは間違いなく母からの遺伝である。
従って、こんな早朝に母が玄関から戻ってくる事は絶対にない。

「…。」

ジリジリと扉に近付くと、気配を感じたのか扉が閉まり始めた。
ゆっくりと頭が消えていき、扉の目の前に来る頃にはピタリと閉じられた。

「気の所為か…。」

しばしの間、扉を睨み付けてからわざとらしく呟く。
ペタペタと足音を響かせながらトイレに向かい、パタンと閉める。

「…。」

数秒後、トイレの扉を開けると玄関の扉のノブがゆっくりと下がった。
カチャリという音の大きさに怯んだように動きを止めた後、ソロソロと開いていく扉からニョッキリと頭が出てきた。

「何しとんねん。」

後ろから声を掛けると、目を丸くした叔母が振り返った。
こんな早朝に来訪する程の用事があるとは思えないが、とりあえず用件を聞く。

「何か用?」

「…お母さん、まだ寝てるみたいだから帰るわ。」

何かを考えるように目を泳がせた後、叔母は肩をすくめながら答えた。
薄手のコートを羽織り直し、マフラーを巻き直して玄関の鍵をガチャガチャと開き始める。

「ちょっと、玄関の戸は開けないでよ!」

叔母を制止するも、ご丁寧に扉を開いた状態でコチラの言葉に反応した。
“何が?”と言わんばかりにポカンとした表情をしているが、叔母の足元から猫達が素早く逃げていった。

「待って!」

慌てて追い掛けると、家の前の階段を下りていく三人の人物が驚きの声を上げながら猫達の行く手を遮っていた。
それは親切心ではなく、たまたま動きが噛み合ったという感じだったが、コチラとして有難い。

「ありがとうございます、助かりました!」

ワタワタと立ち往生する猫達を抱え上げ、三人に頭を下げながら場所を譲る。
両腕に四匹はお互いにキツい状況だが、ココで手を緩めれば二度と会えない可能性があるので締め付ける力は絶対に緩めない。

「いえいえ、お気になさらず…。」

苦笑いではあるもの、穏やかに会釈をする男性が通り過ぎていく。
その後ろから女性に背中を押されながら階段を下りていく少年は、プクプクの体型に似合う楽しげな笑い声を上げていた。

「大丈夫?ソコ、通って良い?」

玄関に立ったまま猫達を見下ろす叔母は、無言で道を開ける私の横をスタスタと歩いていく。
自分が逃がした事への罪悪感もなく、扉を開けていく気遣いすらなかった。

「知ってたけどさ、アレでよく飼い猫を逃さないよな…。」

エッコラエッコラと猫達を運びながら、肘だけで玄関の扉を開けて中に滑り込む。
叔母は飼い猫を抱いたまま玄関の扉を開けたりするので、見かける度に注意をしているが改める気はサラサラないようだ。

「…変な“夢”。」

目が覚めたので、とりあえずメモ帳に見た夢の内容を箇条書きする。
この後、さらに物理的にぶっ飛んだ夢も見たが、コレには猫が登場しなかったので省略した。

「いつか、本当にやりそうなところが怖い…。」

叔母は室内飼いの猫が逃げ出すのはあり得ないと思っているようだが、そうではない事を私は身をもって体験している。
去勢手術の為に預けた愛猫が動物病院から脱走し、一か月後に母が捕獲するまで見付からなかった過去があるのだ。

「体験しないと分からない、という事はない筈なんだけどね…。」

寝ぼけ眼のまま母に夢の話をすると、呆れたようにため息を吐いた。
私と母と祖母が寝る間も惜しんで愛猫を捜索している間、同居していた叔母と従弟は一度も手伝ってはくれなかったのだ。
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