鞠緒さん

鞠緒

兵庫県 30代 女性 ブロック ミュート

猫飼い歴=年齢。 一度はその栄光の歴史が途絶えてしまうも、僅か4日で復興。 現在は1号(♂)と2号(♀)と3号(♂)と4号(♂)の4匹が在籍中。

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312日目「中学の評価は最悪だったけれど、高校では授業態度だけで最高評価を叩き出した程度の実力の持ち主。」
2026年10月21日(水) 12 / 0

昨日までの肌寒さが嘘のような蒸し暑い午後。
棒針のサイズを計っていた母が、ポツリと呟いた。

「お母さん、昔に戻れるなら絶対にミシンが使えるようになりたいわね。」

猫達が毛糸にじゃれ付かないように見張っていた私は、首を傾げて思案する。
お互いに無言で作業を行っていたので、何のきっかけでその話になったのかが皆目見当がつかなかったのだ。

「だって、便利でしょう?」

私も家庭科の授業で何度か作品を作り上げた経験はあるが、その全ては採点後に祖母の手によって綺麗に仕立て直されていた。
数年に一回しかミシンを使わない人間が制作した物の耐久性など子供の目にも明らかであり、私は同級生の中で唯一解れと無縁の学校生活が送れた事を今でも感謝しているので、母の言い分に頷きを返す。

「あなたもあるでしょう?」

「特にないかな…。」

去年の12月13日までなら、15年だけなら遡っても良いと思っていた。
しかし、1号と2号と3号と4号と出会ってしまったので今年の2月7日までしか過去に戻れなくなってしまったのだ。

「そう言えば、二回だけ編み物がしたくなった時があったよ。」

「いつ?」

「小学校三年生くらいに“白鳥の王子”の絵本を読んでいた時と、客が来ない博物館の受付が暇すぎて内職をするしかなかった時。」

私は機械音痴なので、ミシンとは非常に相性が悪い。
だからこその編み物だったのだが、目の病気の為に立体視ができないので図面を見ても完成形が理解できないのだ。

…幼少期に毎年検査を受けていたので見え方に問題がある事は知っていたのだが、病気の影響がある事を知らなかったので“単純に不器用なだけ”だと自分で思い込んでしまったのも良くなかったのだろう。

「じゃあ、お母さんと一緒にする?あなたはかぎ針編みより棒針編みの方が向いていると思うわよ!」

「…お母さんの向いているは、悉く私には合わなかったから無理だよ。」

ションボリする母には申し訳ないが、事実なのでハッキリと伝える。
猫達に帽子やマフラーを作ってあげられるようになったら楽しいだろうが、そう思い続けるにはハンデが大きすぎるのだ。

「お母さんは教えるのが下手だからね。大叔母ちゃんなら、分かりやすく教えてくれるんだけど…。」

「駄目、大叔母ちゃんは基礎の説明をせずに応用に行くから置いていかれるだけだもん。」

母や叔母(と、ついでに従弟)は“何故、理解できないのかが分からなくて説明を止めるタイプ”だが、祖母と大叔母は“理解できない人間が存在するとは思いもしないので、とにかく楽しい工程を教えてあげようとするタイプ”なので、ドチラにしろ素人には全く優しくなかったりする。
母は私(と同級生)の下手くそさに数分で匙を投げたし、祖母は“自分でやった方が早い”と認識してからは触らせず、叔母は出来の悪さを鼻で笑って言い触らし、大叔母は専門用語と擬音しか喋らなかったので、私のヤル気があったとしても才能が開花したかは微妙なところだろう。

「手芸コーナーを散策するのは楽しいから、嫌いではない筈なんだけどね。」

様々な色合いの毛糸や端切れを眺めていると、“歴代の愛猫達や復興組の四匹を模したぬいぐるみや編みぐるみを作ってみたい!”という欲求が湧いてくる。
しかし、幼少期から刷り込まれた“やっても材料費の無駄”という評価を覆すには思い出の比重が重すぎるのだろう。
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