鞠緒さん

鞠緒

兵庫県 30代 女性 ブロック ミュート

猫飼い歴=年齢。 一度はその栄光の歴史が途絶えてしまうも、僅か4日で復興。 現在は1号(♂)と2号(♀)と3号(♂)と4号(♂)の4匹が在籍中。

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207日目「これは全て“夢”の話です。」
2026年7月8日(水) 10 / 0

深夜、祖母の家にある浴室に集結する面々。
私と母と1号と2号と3号と4号の二人と四匹が、浴槽を眺めるように床に座り込んでいた。

…ちなみに、家主の祖母は玄関付近で話している気配がある。

「あと何年、こうやってアンタ達の世話を焼いてあげられるのかしら?」

左側から母の声が聞こえた。
内容は少し暗いが、声音は明るいので悲観している訳ではなさそうだ。

「止めてよ、五年後にあるガラコンサートにも行くんだからさ。」

「どうしたの?最近、優しいじゃない。」

楽しげに笑い出した母の様子に安心し、浴槽に視線を戻す。
ちょうど、2号がお湯の中に飛び込んだ瞬間だった。

「2号!」

慌てて立ち上がると、私の剣幕に気付いた2号がクルリと水面に向かって泳ぎ始めた。
大きな水槽のような浴槽の中を優雅に移動する2号に焦りの色はなく、大声を上げた私に首を傾げている。

…ザバッ!

2号が水槽から顔を出した瞬間、何故か私が浴槽から這い出ていた。
バシャバシャとお湯を撒き散らしながら床に膝をつくと突くと、3号が慌てて駆け寄ってくる。

「はい、コレね。」

スタスタと歩いてきた祖母からスマートフォンの充電器とキャラメルを手渡される。
お湯が滴り続けている状態では出かける準備もできず、ジップアップパーカーのフードをズラして首の後ろにキャラメルの箱を当てて途法に暮れた。

…閑話休題。

明るい日差し浴びながら、滴る汗をハンドタオルで拭う。
右肩から下げたキャリーバッグを揺らさないように気を付けながら、動物病院の扉を引く。

「おう、来たか。」

二十年以上の付き合いがある件の獣医師に挨拶を返し、キャリーバッグの蓋を開けて3号を取り出す。
嫌がるようにウニョウニョと身体を捩っているが、私が生まれる前から獣医をしているベテランの名医と猫飼い歴=年齢の私から逃れる事は非常に難しいだろう。

「今日はどうした?」

3号を覗き込む獣医の頭を見下ろしながら、首を傾げる。
今は8月なので去勢手術には少し早いし、予防接種に至っては来年だ。

…特に用事がない。

無言でいつもより広い診察室に目をやると、3号が入っていたキャリーバッグから1号と2号が飛び出した。
大変お洒落な柄である事以外は特に珍しいところがない普通のキャリーバッグなので、流石に三匹も猫が入るスペースはない。

「1号、2号!早くキャリーに戻りない!」

ワタワタと病院内を駆け回る1号と2号。
3号を片手に抱えながら、ドタバタと走り回る飼い主。

…そして、スピードに追い付けずにキャリーバッグを持ったまま騒動を眺めるだけの獣医師。

「じゃあ、注射でも打つか。」

何とか1号と2号をキャリーバッグの中に入れると、気怠げな様子の獣医師が細い注射器を構えていた。
どういう流れで注射を打つ事になったのかは分からないが、3号をひっくり返して右後ろ足を差し出す。

「うー、にー!」

太ももの裏に針が刺さると、3号が呻き声を上げた。
全身に力を込め、抗議するようにパタパタと耳を動かして気を紛らわせている。

…ポロッ。

3号の右耳から落ちた硬い物が右手の上に乗る。
黒色の歪な塊に眉を寄せるも、注射を終えた3号の右目だけに瞬膜が現れていた。

「先生、目!」

3号の顔を見てもらう為に声を上げるが、注射器を片付けている獣医師はコチラを見ない。
何度か呼びかけるも、獣医師が振り向くよりも先に休憩を終えた受付の女性達が二階から下りてくる方が早かった。

「じゃあ、俺が診ている間に口コミサイトの評価を書いておけ。文章は簡単でも良いけど、眺めにな。」

「は?」

「今やって。どうせ、投稿者のは書いているんだろう?」

「私、人がいないと文章書けないし…。ってか、口コミサイトの書き込みなんてした事ないし!」

「…1987年?」

ニヤニヤと笑う獣医師に疑問を抱く前に、受付の女性達がニコニコと近付いてきた。
一人は獣医師と同じくらいの付き合いがある人で、もう一人は緑色の髪の毛の小柄な人だった。

「この前、帰られてすぐに私達も動画を見たんですよー。」

テキパキと3号の周りで診察の準備をする女性達はとても楽しそうに投稿された動画の感想を言い合っているが、私は天井を見上げながら視線を彷徨わせる。
病院では猫の話しかする機会がないので、私が応援している動画投稿者さんについて語った記憶はないからだ。

…閑話休題。

朝食と昼食のちょうど真ん中辺りの時間帯。
夜勤明けの母から帰宅を告げる電話が掛かってきたので、母が使っているタオルケットを持って階段を下りる。

「おかえりー。」

「ただいま!コレ、先に持って上がってて!」

母にタオルケットを手渡すと、ポストから郵便物を取り出していた母から掛け布団と三匹のたこさんウィンナーを右手に乗せられる。
布団はまだ分かるが、むき出しのたこさんウィンナーを複数個握ったまま帰宅した母に何が起こったのかは分からない。

「お母さん、もうすぐ帰ってくるよー。」

4号が使っているサークル付近に集結していた四匹を呼び寄せ、母から受け取った掛け布団を床に置く。
猫達がクンクンと匂いを確認している間に歴代の愛猫達が愛用していたサークルの三階部分の扉を開けた。

「見付かる前に隠しておくか…。」

サークルに括り付けた座布団の上にたこさんウィンナーを置き、扉を閉める。
3号だけがコチラを見上げていたが、玄関の扉が開く音に気付いてワシャワシャと逃げて行く三匹に続くように家具の裏に隠れてしまった。

「もう、いい加減にしてほしいわ!」

玄関から母の怒鳴り声が響いた。
猫達が離れているのを確認し、扉を開けて顔を出す。

「…何が?」

「コレ!もっと広い家に引越すつもりで置いているけど、この荷物を何とかしたいのよ!」

荷物が積み上げられた玄関の中央には、ゴミ袋に詰め込まれた手芸道具が無造作に転がっている。
“もう少し片付けが上手になれば、今よりもスッキリする筈だ”と言い聞かせながら、母が通れるように身体を横にズラした。

「…変な“夢”。」

目が覚めたので、とりあえずメモ帳に見た夢の内容を箇条書きする。
この後、さらに物理的にぶっ飛んだ夢も見たが、コレには猫が登場しなかったので省略した。

「今日は場面転換が多かったな…。」

私は同級生達から“夢占いで検索できないレベルの支離滅裂な内容の夢ばかり見ている”と思われていたようだが、実は違う。
今回のように“現実でも起こりそうな内容なのに、何かがおかしい”という、どっちつかずの夢ばかり見ているのだ。

「本当に、早く引越したいわね…。」

寝ぼけ眼のまま母に夢の話をすると、ジッとエアコンを見上げていた母がため息を吐いた。
寿命と言われると否定が出来ない年数が経過している物ではあるが、あと少しだけ頑張ってもらえると有難い。
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