第3回 ほのぼの動物エッセイ 「トラちゃん」
今回はほのぼのです。えりかのコラム3回目。
群ようこ著「トラちゃん」のご紹介。
1989年に出たエッセイ本で、猫に限らず
金魚・小鳥・犬・ねずみのほのぼの話がたくさん載ってます。
今回はその中でも題名になっている、猫のトラちゃんのお話を
中心に紹介していきます。気をラクにしてご覧くださいな。
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トラちゃんとは、ある日群家に迷い込んできた一匹のトラ猫のこと。
厳密に言えば一匹ではなく、二匹の子猫連れのお母さん猫。
五月のはじめの昼過ぎに、お母さんと食器洗いをしていた群さんの耳に
何かをひっくり返したような大きな物音が聞こえてきます。
これこそが出逢いの福音。
福音の元は、小鳥のビンタちゃんの鳥かごがひっくり返った音。
ビンタちゃんとはペットの十姉妹で、となりのハゲ(群さん曰く)が
捨てた鳥。隣りの家からビンタをくらって追い出されたので、
ビンタちゃんと名付けられた十姉妹のヒナです。
このビンタちゃんのエピソードも「トラちゃん」に載っていますので
十姉妹が好きな人もぜひどうぞ。
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話を元に戻しまして。
様子を見に行きますと、かごはひっくり返ってザンバラとなっていましたが、
ビンタちゃんは気絶しながらも無事。
右の目がえぐられていると大騒ぎをしたあげくに
よく見たらエサの殻の半分が目玉のカーブに合わせて
パカリとはりついていたというオマケは付きましたが、とりあえず無事。
では犯人は誰だと探すと、ベランダのすみにキジトラとブチの二匹の子猫。
困ったコマッタと二人でオロオロしていたら、
塀の上にきちんとお座りしている茶トラの親猫登場。
これが初代トラちゃんなんですねぇ。
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この初代トラちゃん。
ものすごーくお行儀のいい猫なんです。
あ、その前に群さんのお母さんの話をしておきましょうか。
この本はエッセイなので、群さんの父母弟が出てくるのですが
その中でもとりわけ魅力的に描かれているのがこのお母さん。
その魅力を表している文をあげると
「『ご飯つくってあげるから待っててね』と子猫にむかって愛想をふりまいている」
「『熱いからね、おばちゃんフーフーしてあげる』」
(鳥や金魚との同居について)
「猫にもしっかり話して聞かせれば、お互い殺し合ったりしないと言うのである。」
好ましい猫おばちゃんのセリフでしょ?
小気味のいい猫おばちゃん、というか、猫に限らず動物全体が
好きらしいので、この他にもたくさんお母さんの名言はあるのですが、
今は猫関係だけのご紹介。なんたってネココラムですからねぇ。
けれど、ひとつだけ。
お母さんを表す文で、私が一番好きなとこ。
「動物のことになると、うちは親と子が逆転した」
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トラちゃんのお話をしましょうか。
トラちゃんは気配り上手で躾上手な、きれいな茶トラの猫です。
エサを食べるときもきちんとおあずけをし、子ども達にも「ぐるるる」と低くうなって
きちんとおあずけをさせます。また子猫達が言うことを聞くんですね。
「トラちゃんに何事か言われた二匹は、とたんにしゅんとして、
コソコソッとあとずさりしてじーっとうらめしそうな顔をしてはいつくばっている」
どうかしたら、人間の子どもよりもいじらしいじゃないですか。
ブチの方の子猫、チビと名付けられた子猫はどうにも人間に懐きません。
「いちおう、ニャーと鳴いてお返事しようという意欲はみせるのだが、
それが声となって出てこないのだった」
という具合です。恥ずかしがりやさんなんですかねぇ。
それを気にしているかのように、トラちゃんはいつもきちっとしているんだそうです。
ご飯をもらっても、一口食べてにゃーんとお返事をして美味しいですよアピール。
見上げた気配り猫ですねぇ。
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そんなトラちゃん親子と、小鳥・ネズミ達との生活を
ユーモアたっぷりに、しかし淡々と描いたこの作品。
いや、ほんと面白いですよ。
少なくとも電車や待ち合わせの場所で読んじゃあいけません。
笑いってのは、堪えると余計に襲ってきますから。
大笑いって感じじゃないんです。
ウフフエヘヘヒヒヒって感じでこみあげてくるナニカがあるのです。
油断しているとブホッともきますよ。
けれども、過剰にサービス精神があるわけでもなく、
どこか突き放したような、どこか冷めた目で見ているような
そんなクールな部分もあったりします。
人は人、動物は動物、けれども全部ひっくるめて平等に見ている
群さんのスタイルがそうさせているのでしょうか。
父も母も弟も、自身も動物達も全て同じ目線で見ているので、
そういうクールな部分が心地よかったりするんです。
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今から17年程前、今のように動物を飼うためのマナーが
確立されていなかった頃の話です。
今読むと、おいコラと思うことも少々ありますが、
そこは時代の流れ、おおらかだったということで片付けてしまいましょう。
群さん自身の猫との遊び方も、乱暴だったりそれはあんまりだと思うことも
ありますが、そこもあふれんばかりの愛でカバーです。
何にしても、一家揃っての動物スキーぶりはすごいの一言。
だって並の動物好きぶりじゃないんです。
私も動物は大概好きですが、この一家にはもう降参。
しかも、それぞれの話がほんわかしていてついつい読み進んでしまう
テンポの良さ。気軽に読める本ですので、ぜひ寝る前やお茶をしながらなど、
リラックスしながら読んでみてくださいな。きっとステキな時間になりますよ。
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猫の話以外にも、何でも食べる金魚のよしこちゃんの話、
トイレに落ちちゃった文鳥のチビ、十姉妹のビンタちゃん、
酒乱インコのピーコちゃん、隣りの家のちょっと情けない犬の
ピーター君、強引でスピード狂なモルモットのハム子ちゃん。
ハツカネズミなのに「ドブネズミの突然変異ですか」とまで
言われる程に大きくなってしまったモンジロウ、
そして、つがいで買ってきてしまって増えに増えたハツカネズミの
集団の話など、恐ろしいまでに個性的な動物達の話が勢揃いです。
きっとね、読んでるとね、自分も群さんちにお邪魔しているかの様な
感じになりますよ。
なんだか楽しくて、ほんわかした感じ。
ラク〜なキモチで気軽にどうぞ。
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トラちゃん
飼い主をちゃんと見分ける金魚、迷いこんできた行儀のよい親子のネコ…。群家の一員として過ごした感情ゆたかなペットたち。彼らの表情やその珍事件をユーモラスに綴る。